東京地方裁判所 昭和55年(モ)3956号 判決 1980年6月17日
債権者
橋本金属株式会社
右代表者
橋本豊造
債務者
鈴木志津子
右訴訟代理人
児玉勇二
主文
一 当裁判所が昭和五五年(ヨ)第一〇八二号債権仮差押申請事件について昭和五五年二月二〇日なした仮差押決定を取消す。
二 債権者の右仮差押申請を却下する。
三 訴訟費用は債権者の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
一債権者は、主文第一項掲記の仮差押決定(以下「原決定」という。)を認可する旨の判決を求め、その申請の理由として、
1 債権者は、債務者に対し、次のとおりの金員をいずれも弁済期は貸付日の二か月後、利息日歩四銭、遅延損害金日歩八銭二厘として貸付けた。
(一) 昭和四九年一一月一二日
三四〇万円
(二) 昭和五〇年三月一日 一四五万円
(三) 同年八月一日 一八五万円
(四) 同日 一一万円
(五) 同年一二月三一日
二一一万五〇〇〇円
合計 八九二万五〇〇〇円
2 債権者は、不動産競売による配当で、右貸金の元金、損害金のうち合計九一八万三六三〇円の交付を受けたので、昭和五三年六月一〇日における残元金、損害金は七六〇万三三〇二円となり、右金員及び同日以後年三割の割合による遅延損害金請求権を有する。
3 債務者には、原決定別紙差押債権目録記載の債権のほかに資産がないので、債権者の右債権の内金一〇〇万円で、債務者の債権を仮差押する必要がある。
と主張し、債務者主張の二重訴訟(申請)の点について、同一内容の申請であることは認めるが、債務者は、前件の抗告審決定の前に仮差押債権のうち五〇〇万円を取戻してしまつたので、やむをえず、前件とは別に本件申請をしたのであるから、単なる二重訴訟ではないと述べた。
二債務者は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、債権者は本件申請と同一内容の仮差押申請を前にしており(当庁昭和五二年(ヨ)第九四七〇号、抗告審・東京高等裁判所昭和五三年(ラ)第四七二号)抗告審において、被保全債権の満額相当額の担保を供することを条件とする仮差押決定しか出なかつたが、債権者は供託せずに放置し、再度仮差押申請をしたと主張し、申請の理由に対して、債権者主張の貸金のうち、(一)の三四〇万円及び(二)のうち五〇万円については認めるが、利息は月五分の割合で、天引であり、弁済期の定めはなかつたのであり、右借受分の元利合計は不動産競売の配当によつて消滅し、しかも過払になつていると述べた。
三本件申請が前件と同一内容であることは当事者間に争いがなく、前件の抗告審決定書(債務者提示の疎乙第一号証の二)と本件申請との対比によつても明らかである。保全の必要性についても、特に変動があつたことについての主張はない。従つて、本件申請は民事訴訟法二三一条により不適法である。
もつとも、二重訴訟の場合、後の申請が、絶対的に不適法なのではなく、判決(決定)までに前件が取下などによつて終了していれば、適法になる余地があるが、前件の抗告審決定書によれば、前件は原審で却下された後、抗告審で、被保全権利の疎明は充分ではないが、必要性はあるので、被保全債権全額に相当する担保を供させて仮差押を認めるという結論となつたいわくつきのものであり、債権者が前件を取下げたうえ、本件について前件を尊重して満額の保証金を供託することを申出て申請するのであれば別であるが、前件を秘して申請するのは、正当な態度とはいえない。
以上の次第で、債権者の本件申請は、二重訴訟の禁止にふれて不適法であるので、原決定を取消したうえ、申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(佐藤道雄)